○信濃毎日新聞 社説06月30日(火)
出生前診断 「命の選別」避けるために
胎児の染色体疾患を調べる出生前診断を受ける人が増えている。
出産の高年齢化に伴い、子どもに先天的な障害があるのではないかと
不安を抱く妊婦が多いことが背景にある。
医療技術が進み、新しい検査も広がっている。一方で、妊婦や夫婦に
十分な情報を提供し、受診するかどうかの判断や、結果が出た後の意思
決定を支える態勢が整っているとは言いがたい。
障害がある胎児を産まない選択は「命の選別」にもつながりかねない。
重い決断を迫られて後々まで苦しむ人もいる。障害がないことを知って
安心したいからと気軽に受けるような検査ではない。
それだけに、当事者に熟慮を促し、精神面でも支えるカウンセリング
態勢が欠かせない。と同時に、子どもに障害があっても安心して育てら
れるよう、社会が支援を強めていかなくてはならない。
妊婦の血液でダウン症などを調べる新出生前診断は導入初年の20
13年度、7700人余が受診。2年目は1万人に増えた。従来からある
羊水検査も13年は2万件余に上り、過去最多となった。
新出生前診断の実施施設には、妊婦らへのカウンセリングが義務付けら
れている。ただ、短時間の一方的な説明だけだったり、不十分な場合がある。
羊水検査を実施した医療機関でも、事前の説明は多くが15分未満だった。
人工妊娠中絶につながる倫理的な問題を説明したところは6割ほどにとどまる。
問題が大きいと言わざるを得ない。
新出生前診断の実施施設は当初の15から50以上に増えた。大半が加わる
グループと別に、独自に実施するところも出始めている。検査対象を他の遺伝
疾患に広げるよう求める動きもある。
専門資格として認定を受けた遺伝カウンセラーは全国に160人ほどしかい
ない。当事者を支える態勢が追いつかないまま検査を広げるべきではない。
県内では、県立こども病院と信州大病院の医師、看護師らが12年から共同
のワーキンググループを設け、実施するかどうかの検討を続けている。結論を
急がず、慎重に議論を重ねてほしい。
出生前診断が安易に広がれば、検査を受けるよう圧力が強まったり、障害が
あると分かったのになぜ産むのかと非難されたりする恐れもある。障害者や
家族がさらに息苦しさを感じる社会にもなりかねない。そうしないために何を
すべきか。社会全体で考えていく必要がある。