○東京新聞 2014年5月11日より
バリアフリー映画 障害者も一緒に 目と耳の相棒
目や耳に障害がある人たちも一緒に映画を楽しめるようにする取り組みが少しずつ広がっている。「バリアフリー映画」と呼ばれ、セリフを字幕にしたり、情景をナレーションで説明したりして理解を助ける。障害者の鑑賞に不可欠なサポートだが、多くの費用と手間がかかり、作品はまだ限られる。関係者は「まずは必要性を知ってほしい」と普及活動を続ける。 (中村陽子)
ゴールデンウイークの親子連れでにぎわう東京・JR立川駅近くの映画館「立川シネマシティ」。封切りされたばかりの人気シリーズ「相棒-劇場版III-」(東映)に出演する水谷豊さんと成宮寛貴さんのやりとりが字幕となってスクリーン下方に流れる。
右京「おはようございます」
享「杉下さん、馬お好きでしたよね?」
「ブルルル…」。背後で響くヘリコプターの音も文字になる。
同館は連休中、すべて聴覚障害者のために用意した字幕版を上映した。窓口では、筆談でチケットを注文する客の姿も。館の担当者は「障害者限定ではなく、誰でも見られるよう上映しています。字幕があっても、鑑賞しづらいと言う方はほとんどいません」と話す。
邦画に字幕をつける取り組みは、一九九〇年ごろから始まった。バリアフリー映画の普及を進めるNPO法人メディア・アクセス・サポートセンター(東京都中野区)の統計では、昨年度に劇場公開された日本語映画約六百作のうち、字幕上映されたのは一割弱にとどまる。
しかし、事務局長の川野浩二さんは「近年は横ばい状態だったが、これからはもっと広がるでしょう」と期待をかける。日本は今年一月、「障害者権利条約」を批准。条約は、障害者に対して文化的な環境を保障することなどを掲げており、映画のバリアフリーも対象となる。メガネ型の端末で必要な人だけ字幕を見られるシステムなど技術開発も進みつつあるという。
一方、三十万人以上いるとされる視覚障害者向けに作られているのが「音声ガイド」付きの映画。セリフの合間を埋めるようにナレーションが加わり、見えなくても場面をイメージしながら楽しめる。
こちらは字幕以上にハードルが高く、昨年上映されたのは、十作に満たない。二〇〇四年から、社会貢献事業として映画のバリアフリー化を進める住友商事の菅谷(すがや)百合子さんは「加工する際、作品の芸術性を壊さないような工夫が必要。脚本を基に専用の台本を作るので、製作会社の理解と協力がなければ実現しない。個人的なボランティアでは難しい領域」と説明する。
費用は音声データを作るだけでも百万円を超す。そのため予算のつけやすい大型作品か、障害を題材にしたものに偏りがちだという。
では、実際に障害のある人は、どう感じるのか。視覚障害のある有冨晃さん(79)=東京都板橋区=は「ガイドがあるとすごく分かりやすいね」と驚いた様子。先月、区内の高島平図書館で開かれた人気映画「武士の家計簿」のバリアフリー上映会に参加した。十年ほど前から緑内障と白内障を患い、現在は障害一級。「目を悪くしてから、初めてこういうふうに映画を鑑賞した」とうれしそうに話す。耳が不自由という女性(47)は「SFやホラーなど、もっといろんなジャンルが見たい」と期待する。
◆加工、DVD化で実現も
劇場上映向けではバリアフリー化できなかった作品も、DVD化する際に音声ガイドをつけることがある。必要な処理が違い、劇場用と比べて費用が半分以下で済むという。
松竹映画「小さいおうち」はこのケース。DVD発売を前に先月、都内のスタジオで音声ガイドの収録が行われた。専用の台本づくりなどを請け負ったのは、NPO法人シネマ・アクセス・パートナーズ(渋谷区)。タイミングやスピード、声の大きさなどを何度も調整しながら、ほぼ丸一日かけてナレーターが吹き込みをした。
どのように聞こえるかのモニターとして参加した中途失明者の女性(40)=足立区=は「たとえば穴を掘っている音なのか、木から雪が落ちた音なのか、説明されなければ分からない。ガイドがあるとないとでは、天と地ほどの違い」と話していた。
バリアフリー映画 障害者も一緒に 目と耳の相棒 東京新聞より
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